Research 研究内容

1. 新規な半導体高分子材料の開発

1. 共役側鎖の導入による光電変換効率の向上

有機薄膜太陽電池の材料開発において、半導体ポリマーの吸収波長を長波長化して、太陽光の吸収効率を上げることは盛んに研究されています。その方法論の一つとして、電子供与性(ドナー)と電子受容性(アクセプター)のユニットを組み合わせるドナー/アクセプター(D/A)型コポリマーの設計があります。これは、ポリマー鎖内でのDからAへの電子の移動にともなう光吸収を利用することで、より小さなエネルギーを持つ光(長波長の光)を吸収するようにしています。これまでに様々な構造を持つユニットが数多く研究されており、そのおかげでユニットの組み合わせによって吸収波長を調整することはある程度思い通りにできるようになっています。

一方で、ポリマーが光を吸収したとしても必ずしも高い効率で電荷を発生するとは限りません。吸収はするけれども電荷が発生しない、という場合もあり得ます。しかし、実際にポリマーをどのような構造にすれば電荷発生が良くなるのかについては、単純なエネルギーレベルの一致による議論を除けば、ほとんど明らかになっていません。

我々は、上記のD/A型コポリマーのデザインに加えて、共役側鎖を持つ部位を一部だけ共重合するという新しいアプローチを提案しました。この方法を用いると、共役側鎖がない場合に比べて特に電荷の発生が効率化し、その結果25-43%の光電変換効率の向上が見られました。特に、当チームで開発された挟バンドギャップのD/A型コポリマーとこのアプローチを組み合わせることで、22 mA cm−2を超える短絡電流密度を得ることができました。これは、太陽光照射下の有機薄膜太陽電池の短絡電流密度としてはこれまでで最大の値です。

  1. polymer201354, 6501-6509. DOI
  2. Energy Environ. Sci.20125, 9756-9759.  DOI
  3. Macromolecules 2008, 41, 8302.  DOI

2. ポリマーブレンド薄膜太陽電池の材料開発

現在有機薄膜太陽電池では、電子アクセプターとして可溶化フラーレン誘導体が主に使われています。これはフラーレンの優れた電子特性によるものですが、一方で半導体のポリマーを電子アクセプターとして用いることができれば、材料設計の自由度が飛躍的に上がり、より高い効率を示す材料を開発することができる可能性があります。

当チームではこのポリマーブレンド薄膜太陽電池のための材料開発を進めています。お互いに混ざりにくいポリマー同士の混合膜の構造をいかに制御するかが、高い効率を得るための鍵であることが明らかになってきました。電子ドナーとアクセプターのポリマー構造の両方を探索し、また溶媒に添加剤を加えるなどの工夫をすることで、相溶性や結晶性を制御できることが分かりました。その結果、ポリマーブレンド薄膜太陽電池として3.6%の光電変換効率を達成しました。

  1. Adv. Mater. 201325, 6991–6996. DOI
  2. Chem. Commun.201248, 5283-5285.  DOI
  3. Angew. Chem. Int. Ed.2011, 50, 2799-2803. DOI

3. アクセプターユニットでドナーオリゴマーを連結する新規半導体ポリマーデザイン

挟バンドギャップ半導体ポリマーを得るために一般的なD/A型コポリマーのアプローチは、モノマーユニットの組み合わせによって吸収波長が大きく変えられるという利点があります。一方で、ユニットの構造によっては薄膜中の結晶性が大きく低下して電荷移動度が下がってしまう可能性があり、効率が思うように向上しないことがあります。そこで、ポリマーの結晶性を維持しながら、光吸収効率を改善する新しいデザイン手法を考えました。結晶性半導体ポリマーとしてよく知られているポリ(3―ヘキシルチオフェン)(P3HT)のオリゴマーを、電子アクセプターユニットで接続するというものです。これによって、ポリマーの結晶性はP3HTと比べてそれほど落とさずに、アクセプターユニット近傍での相互作用により、吸収を広げることができました。オリゴマー部分の分子量を変えることで、長波長領域の吸収も調節できます。また、薄膜太陽電池への応用の検討から、ポリマー内でエネルギー移動が起こっていることが示唆されています。

  1. Macromolecules201144, 4222–4229. DOI
  2. Macromol. Rapid Commun.2012,  33, 658-663. DOI
  3. Polymer J.201244, 1145–1148. DOI

2. ナノ構造の制御

1. 半導体ブロックコポリマーによるナノ構造の制御

現在高い効率を与える有機薄膜太陽電池は、ドナー分子とアクセプター分子の混合薄膜構造(バルクヘテロ接合構造)を用いています。これによって、両物質の界面の面積を大きくすることで、電荷を発生できる分子レベルの接合を増やして、大きな電流を得ることができます。しかし、発生した正孔と電子の輸送に関しては、それぞれドナーとアクセプターの内部で起こるので、これらが完全に混合していると輸送の効率が悪くなると考えられます。そのため高効率のバルクヘテロ接合では、相分離のサイズをうまく調節することで、広い界面と電荷輸送経路の構築を両立させていると言えます。しかし、そのようにして得られた構造が有機薄膜太陽電池の性能を限界まで引き出すものであるかどうかはわかっていません。

当チームでは、半導体ブロックコポリマーの自発的なナノ構造形成によって、混合バルクヘテロ接合を超えた理想的な薄膜構造を構築することを目指して研究を行ってきました。ブロックコポリマーは、異なる種類のモノマーが連続して繋がった構造(ブロック)を持っており、それぞれのブロックの異なる性質を利用する事ができます。また、お互いに混ざり合わないブロックを利用することで、数十nm程度に分離した構造(ミクロ相分離構造)が自発的に形成します。そこで、電子ドナー/アクセプターのブロックを持つブロックコポリマーを合成し、有機薄膜太陽電池に用いることが出来れば、混合に頼ること無く、ナノ構造を有するバルクヘテロ接合を自己組織化によって形成することができると考えました。実際にポリマー合成の手法を駆使して、片方のブロックの側鎖にフラーレンが直接結合したブロックコポリマーを合成することに成功しています。このポリマーは薄膜中で、ドナー/アクセプターが20 nm程度のサイズで分離したようなミクロ相分離構造を形成することが、原子間力顕微鏡によって観測できました。このように、ポリマー合成化学による分子デザインの工夫で精密な構造制御ができれば、さらに高い効率を持つ有機薄膜太陽電池の達成につながるものと期待しています。

  1. Macromolecules201245, 6424−6437.  DOI
  2. Chem. Commun.2010, 46, 6723-6725. DOI
  3. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 7812. DOI

2. ドナー/アクセプターダイアド分子を使った有機薄膜太陽電池の構造制御

電子ドナーとアクセプターが連結された分子はダイアド分子と呼ばれ、溶液中での電荷分離過程の解析などの目的で幅広く研究されています。ドナー・アクセプターの連結により大きな相分離を防げることから、ダイアド分子を有機薄膜太陽電池の活性層に用いることは、現在広く用いられている混合バルクヘテロ接合型太陽電池に比べて、ナノ構造制御、デバイスの再現性などの観点で有利であると考えられます。しかし、初期の報告では光電変換効率が0.4%程度と低い値に留まっていました。

当チームではドナー部位に結晶性の高いπ共役分子や可視光領域を幅広く吸収する色素などを用い、アクセプター部位にはフラーレン誘導体を用いたダイアド分子を合成しました。その結果、それらのダイアド分子を用いた有機薄膜太陽電池では、光電変換効率が向上し、最近では2%に近い値を報告しています。さらに、ダイアド分子を用いた太陽電池デバイスは、混合バルクヘテロ接合型太陽電池と比べ、高温、長時間のアニール後も高い変換効率を維持し、ドナー・アクセプターの相分離構造を安定化できることがわかりました。これらの結果から、ダイアド分子は高効率かつ高安定性な太陽電池を実現する可能性のある分子デザインであると言えます。

  1. Chem. Commun., 2009, 2469-2471. DOI
  2. Chem. Commun., 2011, 47, 6365-6367. DOI
  3. Phys. Chem. Chem. Phys., 2012, 14, 16138-16142. DOI

3. 有機半導体界面の制御

1. ドナー/アクセプター界面の改変による電圧制御

有機薄膜太陽電池では、主に有機半導体同士の接合界面において電荷分離が起きるため、その性能は界面の構造に大きく影響されます。しかし、比較的単純な電子ドナー/電子アクセプター二層積層型の有機薄膜太陽電池においてさえ、その界面構造が薄膜内部に存在しているために、それらを直接分析したり、制御したりすることは極めて困難です。まして現在盛んに研究されているドナー/アクセプター混合薄膜(バルクヘテロ接合)においては、より複雑な有機物の界面に関する情報は全くと言って良いほど分かっていません。これは、有機接合界面の構造と太陽電池性能を直接結びつける実験的な手法が限られているためと言えます。

我々は、このような実験的手法の開発を目指して、自己組織化による薄膜表面への単分子膜の形成について研究を行ってきました。またこの現象と、温和な条件における薄膜転写法を組み合わせることで、二層型有機薄膜太陽電池の電荷分離界面へ分子双極子層を挿入することを行いました。その結果、有機界面での分子双極子層の向きや大きさを自在に変化させることに成功し、この影響によって太陽電池の開放電圧(VOC)の大幅な制御が可能であるということを実験的に示しました。

  1. Phys. Chem. Chem. Phys.2012, 14, 3713 - 3724. DOI
  2. Nature Mater.201110, 450–455. DOI
  3. Nature Asia Materials Research Highlight

2. ドナー/アクセプター界面構造制御で電圧向上と電流維持の両立

有機薄膜太陽電池のためにさまざまな有機半導体材料が開発されていますが、一般的に電圧を高くする材料設計では電流が低くなり、逆に高い電流値を狙った材料では電圧が低くなるというトレードオフの関係が見られ、思うように効率が向上しないことがあります。大雑把には、これは電荷分離に有利なドナー/アクセプター界面は、同じく電荷再結合にも有利になる、ということに起因していると言えます。これを解決するためには、2つの有機半導体の界面における電荷の再結合による損失を抑えつつ、同時に光エネルギーを界面に集めて電流に変換する「電荷移動中心」を導入することが鍵ではないかと考えました。そこで、二層型有機薄膜太陽電池の構造を土台に、有機半導体の界面に薄い絶縁性のポリマー薄膜を挿入し、さらに絶縁層に少量の有機色素を添加(ドーピング)しました。その結果、期待通りに太陽電池の電圧が向上し、さらに有機半導体から色素への励起エネルギーの移動によって、電流の低下を抑制できることを見いだしました。同様の構造を高効率の有機薄膜太陽電池に適用することにより、原理的にはどの電池でも電流の低下を抑制しつつ、電圧を上昇させることができると考えられます。

  1. Adv. Energy Mater. 2013, in press. DOI
  2. JSTプレスリリース「有機薄膜太陽電池の界面構造制御により電圧向上と電流維持の両立に成功」

3. 電場による界面構造の制御とデバイスの性能変化

通常は有機電子デバイスの有機物質界面の構造は変わらないものと仮定していますが、もし外部からの刺激によって構造が変化すれば、それに応じて電子デバイスの特性が変化することが予想されます。特に有機薄膜太陽電池のドナー/アクセプター界面の場合、電荷の生成や再結合が起こる場所であるためにその変化がより劇的であることが期待され、センサーなどの用途に展開できる可能性があります。

我々は、二層型有機薄膜太陽電池の界面に導入した分子双極子層が、外部の電場と相互作用してその向きを変え、その結果としてダイオードや太陽電池の特性が大きく変化することを発見しました。またその変化は電場の向きによって可逆的にスイッチすることができました。メモリ機能をもったフォトダイオードなどといった新たな機能を持ったデバイスへの展開が期待されます。

  1. Adv. Mater. 2013, 25, 1071-1075. DOI

4. 高分子配向性の制御

1. 半導体ポリマーの薄膜中での垂直配向制御

ポリマー分子は一次元的にモノマーが繋がった長い紐のような形状をしています。しかし半導体ポリマーはπ共役平面を持っており、またより剛直な構造をしているので、細長いリボンのようなイメージになります。薄膜中ではこれらの分子が色々な方向を向いて凝集しており、またポリマーによっては結晶化する場合もあります。ポリマー鎖の向きにそった電気伝導が速いため、分子の向きを薄膜中で一方向に揃えることで、薄膜中の電気特性が向上することが知られています。これらのポリマー鎖を薄膜の表面(あるいは基板)と平行に並べることは比較的容易ですが、しかし薄膜に対して垂直方向に並べることは実現されていませんでした。

当チームでは、低い表面エネルギーを持つフッ素化アルキル基が、気/液界面に自己集積する表面偏析現象を利用して、この垂直配向を達成することに成功しました。フッ素化アルキル基を末端に持つ半導体ポリマーを合成し、通常の半導体ポリマーとの混合溶液からスピンコートすることで、フッ素化アルキル基を持つポリマーが表面で垂直に配向する事がわかりました。更に、薄膜内部の通常のポリマーも表面からの結晶化の影響で同様の垂直配向が誘起されることが明らかになりました。この結果として、薄膜の垂直方向の電荷移動度は約30倍程度向上しました。この手法はその他の結晶性半導体ポリマーにも応用できる可能性があり、さまざまな有機電子デバイスの性能向上が期待できます。

  1. Chem. Commun.201450, 3627-3630. DOI
  2. J. Am. Chem. Soc. 2013135, 9644-9647. DOI
  3. 高分子, 63巻 2月号(2014年)pp. 108-109.

2. 半導体高分子の表面偏析単分子膜

当チームでは以前、可溶化フラーレン誘導体にフッ素化アルキル基を導入することによって低表面エネルギーを持たせ、溶液からの塗布中に液膜の表面に偏析させることで、フラーレン誘導体薄膜の表面を単分子層で覆い、半導体薄膜のエネルギーレベルなどの特性を変化させる手法を開発しました。我々はこれを「表面偏析単分子膜(Surface Segregated Monolayer:SSM)」と名づけました。このコンセプトを半導体高分子にも展開することができれば、様々な有機半導体デバイスに応用できると期待されます。

そこで我々は、フッ素化アルキル基とアルキル基の側鎖を交互に持つポリ(3-アルキルチオフェン)を合成し、表面偏析単分子膜への応用を行いました。その結果、表面に形成する双極子モーメント層によって、有機半導体薄膜のイオン化エネルギーが+1.8 eVも変化することがわかりました。これは、金属表面に形成する自己組織化単分子膜(SAM)の影響に匹敵する大きさであり、SAMと同じように有機/有機または有機/無機界面のエネルギーレベルを変化させる手法として幅広く使えることが期待できます。また、フッ素化アルキル基の側鎖への交互の置換パターンは、高い密度の表面偏析単分子膜を形成するためには必須であることも明らかにしています。

  1. Chem. Mater., 201123, 4257–4263. DOI
  2. J. Mater. Chem. A 20131, 11867-11873. DOI
  3. Macromol. Rapid Commun.201132, 1478–1483. DOI